日本でも指折りの歓楽街の一角に、23年以上にわたり「行き場のない人」を受け止め続けてきた場所がある。
公益社団法人 日本駆け込み寺。
DV、ストーカー、金銭トラブル、家庭内問題、そして「もう生きられない」と感じるほど追い詰められた人たちの最後の相談先として、静かにその役割を果たしてきた団体だ。
2025年、その日本駆け込み寺がかつてない危機に直面する。
そして、その再建の重責を背負うことになったのが、当時26歳の女性、清水葵さんだった。
本記事では、テレビ番組「ザ・ノンフィクション」で描かれた姿や公表されている情報をもとに、清水葵さんの学歴や経歴、そして代表理事として歩み始めた現在までを、ノンフィクションとして丁寧にまとめていく。
清水葵さんとは何者なのか
清水葵さんは、公益社団法人 日本駆け込み寺の代表理事を務める人物である。
2023年10月に常勤職員として同法人に入社し、現場での相談支援や運営に携わってきた。
その後、2025年4月、団体の再建を託される形で代表理事に就任している。
年齢は20代半ば。
社会的支援団体の代表としては、異例とも言える若さだ。
しかし、その若さこそが、今の日本駆け込み寺にとって必要とされていた要素でもあった。
清水さんは自ら「Z世代が相談を解決する姿を通じて、勇気や希望を与えられる存在になりたい」と語っている。
出身地と生活拠点
清水葵さんは東京都新宿区を生活拠点として活動している。
日本駆け込み寺の拠点である歌舞伎町は、昼と夜でまったく異なる顔を見せる街だ。
観光客や若者で賑わう一方で、貧困、依存、暴力、孤立といった問題も、表に出にくい形で存在している。
清水さんは、そうした街の現実と日常的に向き合いながら、相談者一人ひとりと向き合う立場にある。
学歴 京都市立紫野高校から龍谷大学へ
清水葵さんは、京都市立紫野高等学校を卒業している。
紫野高校は、京都市内にある公立高校で、地域に根ざした教育を行ってきた学校として知られている。
特別に派手な進学実績を売りにする学校ではないが、生徒一人ひとりの個性や進路を尊重する校風が特徴とされている。
高校卒業後は、龍谷大学に進学。
キャンパスは深草キャンパスで学んでいたことが明らかになっている。
龍谷大学は、仏教精神を建学の理念に掲げ、「共生」や「社会貢献」を重視する大学として知られている。
清水さんが後に社会福祉や支援活動の道に進んだ背景には、学生時代に培われた価値観や学びが影響していた可能性もある。
学生時代に抱えていた「生きづらさ」
清水葵さんは、過去にいじめに苦しんだ経験があることを明かしている。
学生時代、居場所を見失い、自分の存在価値が分からなくなるような時間を過ごしたという。
その体験は、決して過去の傷として消え去ったわけではない。
むしろ、後に「助けを求めることの難しさ」や「安心できる居場所の必要性」を強く意識する原点となっていく。
自分が苦しかったとき、もし手を差し伸べてくれる場所があったら。
その思いが、清水さんを支援の道へと向かわせていった。
元保育園エリアマネージャーという異色の経歴
大学卒業後、清水葵さんは保育業界で働いていた。
肩書きは、保育園のエリアマネージャー。
複数の園を統括し、現場の保育士や職員のサポート、運営管理などを担う立場だったとされている。
子どもと直接向き合う仕事であると同時に、現場を支える「裏方」としての役割も大きい。
人の感情に寄り添い、トラブルを調整し、日常を回し続ける力が求められる仕事だ。
この経験は、後に日本駆け込み寺で多様な相談者と向き合う際にも、大きな糧となったと考えられる。
日本駆け込み寺との出会い
清水葵さんが日本駆け込み寺に関わるようになったのは、ボランティア活動や被災地支援を通じてだった。
困っている人の話を聞く。
評価も見返りもない中で、ただ隣に座り続ける。
その積み重ねの中で、清水さんは「安心して助けを求められる居場所を作りたい」という思いを強めていった。
そして2023年10月、日本駆け込み寺に常勤職員として入社。
現場スタッフとして、相談対応や夜回り、若者支援などに携わるようになる。
2025年に起きた突然の危機
2025年5月、日本駆け込み寺は深刻な事態に見舞われる。
当時の事務局長が薬物所持の疑いで逮捕されたことで、団体の信頼は大きく揺らいだ。
その影響で、東京都からの補助金や、支援者からの寄付金が相次いで打ち切られる事態となる。
活動継続は困難を極め、家賃の支払いすら危うい状況に追い込まれた。
このとき、再建を託されたのが、26歳の清水葵さんだった。
代表理事就任と「崖っぷち」の日々
2025年4月、清水葵さんは代表理事に就任。
共同代表として玄氏とともに、日本駆け込み寺の舵を取ることになる。
しかし現実は厳しかった。
資金は底をつき、支援の手は限られていた。
それでも清水さんは、活動を止めなかった。
8月には活動を再開し、行き場のない若者が一息つける休憩の場を提供。
夜の歌舞伎町を歩く夜回りも再開した。
街頭募金やイベント企画にも奔走し、24時間相談できる居場所づくりにも挑戦していく。
支援される側から、支える側へ
番組では、18歳でホストクラブにのめり込んだ女性が登場する。
彼女は、駆け込み寺を「居心地の良い場所」と感じ、頻繁に訪れるようになった。
やがて彼女は、清水さんを手伝う側へと回っていく。
支援は一方通行ではなく、連鎖していくもの。
その姿は、清水葵さんが目指す「Z世代がZ世代を救う」という理念を象徴しているようにも見える。
清水葵さんが示す新しい支援の形
清水葵さんは、決して「強いリーダー」を演じているわけではない。
迷い、悩み、追い詰められながらも、それでも前に進もうとする姿がある。
だからこそ、相談者と同じ目線に立つことができる。
「助けて」と言えなかった過去を持つからこそ、「助けていいんだ」と伝えられる。
日本駆け込み寺の再建は、まだ道半ばだ。
だが、その中心には、確かに清水葵さんという一人の若者の覚悟がある。
彼女の挑戦は、歌舞伎町だけでなく、社会全体に問いを投げかけている。
居場所を失った人を、私たちはどう受け止めるのか。
そして、誰がその手を差し伸べるのか。
清水葵さんの歩みは、その答えを探し続ける物語でもある。
